まずは、今の水の状況から説明します。
硝酸態窒素による地下水の汚染について、地域によりますが影響を考慮した対応が進んでいます。
日本の水道普及率は98%(平成29年)と高い普及率ですが、いまだ水道を利用できない未普及人口が存在しており、国は早期解消を図る取り組みを進めています。

また、その水道の水源に地下水を使用する団体は多く、その理由にダム等の大規模水源施設を構築するより、安価に水源を確保できることや、水質が良いため浄水コストを抑えるメリットもあり、そのコストを抑えることで使用者が支払う水道料金に反映されています。

平成28年水道事業経営指標によれば、給水原価にダムを主とする水源では182円53銭、河川を主とする場合151円27銭、その他として分類される地下水では142円93銭と原価に変化が見られます。
これが、供給する際の単価に反映され、水道水源により受益者負担に大きな差になります。

このように、水道事業者は水道水源に地下水を活用しており、地下水の使用割合が深井戸、浅井戸、伏流水を合わせた地下水を3割とも8割とも言われます。
ですが、近年は全国的に硝酸性窒素による地下水汚染が問題になっており都道府県によりますが深刻と捉えるところが多く見られるようになりました。

熊本県では地下水の使用割合が8割と高く、危機意識を持っています。
住民と行政の役割を策定し住民に地下水汚染状況を認知し、汚染原因を認識してもらう取り組みをしています。
行政は、対策方法を提示し、その政策を推進させます。又、汚染状況や対策効果の把握をし啓発活動を行います。
これにより、住民と行政による硝酸性窒素の削減を進めているようです。

北海道では、平成13年度に主に農業地域において汚染が広がっていることを確認しています。
硝酸性・亜硝酸性窒素による地下水汚染は網走・胆振・空知・十勝・渡島支庁道内の畑作地域に中心とした広い地域で確認されており、特に網走支庁の超過率は他より高く濃度も高いと認知されました。
その汚染原因は窒素肥料の施肥に由来すると想定しています。

その硝酸性窒素等が高濃度で検出される場合の多くは人間の活動に起因されると考えられます。その主な原因として以下の3つが要因として考えられています。
①過剰施肥によるもの
②家畜排せつ物の不適正処理によるもの
③生活排水の地下浸透によるもの
とされます。

なお自然の状態では高濃度の硝酸性窒素が検出されることは非常にまれです。ですから環境基準の10mg/Lを超える高濃度が地下水から検出された場合は人の活動に起因するとされます。

では、高濃度の汚染が急速に進んでいるのかと言えばそうではありません。

少し古いのですが環境省が平成14年の測定結果によると、硝酸性窒素は、調査対象井戸4207本のうち247本は環境基準を超えていますが、それ以下で検出されるのも多いのです。
例えば2mg/L以下は2264本、4mg/L以下で776本となり、環境基準超過10mg/L超247本は数字的に小さいと言えます。

しかし、2mg/L以下2264本は3年前の平成11年で1862本と増加しています。
同じように4mg/L以下776本ですが3年前は634本、10mg/L超247本は173本と増加しています。

つまり、年々汚染が進んでいることがわかります。

本年は令和3年で、平成にすれば33年になります。およそ20年後の数値はどうなったのでしょう。
それを裏付けるのが各県が地下水汚染に対する危機感の表明になります。

では、本日のテーマになります。
地下水の硝酸性窒素の影響を考えて見ます。

先ほどのように近年は地下水汚染について地方自治体に限らず、環境保全の観点、汚染行為の問題を取り上げる報道が見られるようになりました。
①の過剰施肥によるものは、筆者の地域ではあまり見ることはありません。それは、化成肥料を散布する農家さんは必要量しか施しません。
それは、散布作業の簡便化で少量で広範囲に短時間で作業でき、価格の高い化成肥料を大事に使用する傾向が見られます。

ですが、家畜の肥料を使用する農家さんには少し事情が異なるようです。

通常、堆肥には2種類あると思います。
1,家畜の糞そのもので、発酵させることを想定していない又は発酵途上の物
2,攪拌ローダやコンポストを使用して家畜糞を発酵させ、減容し臭気を軽減した物

資金力がある農場は2を採用されていることと思います。

この発酵は、特に窒素分を少なくさせる効果があるとされます。
分解させることはアンモニアガスが作物を枯死させる原因を未然に防ぎ、過剰な要素を減少化し作物の吸収以上の未使用養分が過剰に地中に残ることを抑制する働きがあります。

しかし、耕種農家さんはたい肥といえば、畜糞そのものと考える方も少なからずいます。
散布が無料や安いことで依頼するという状況も見ます。
また近年は、散布作業までを堆肥搬入としているところが多く、農家さん自身がたい肥を均したりする手間はいらなくなっています。
これにより、依頼し綺麗にならした畜糞を畑に入れてくれるので、覆土するだけで手間がありません。
そして格安や無料であればとても良い話です。
散布を依頼される畜産農家さんも、2トン車等で田畑に均し入れていきますが、適正量で入れるというより、車両1台を入れるというもので作物や田畑により納品量を上下することは珍しいと思います。
一部は耕種農家さんが指定し、車両半量で入れる等指定されることはあるかもしれません。

この場合の多くは、発酵処理をした畜糞を納品していることが多いと思います。
先ほどのように、発酵処理は加工前の糞に比べると窒素をはじめ要素が小さくなり、著しい過剰量になることは稀になります。
ですが、発酵処理前である場合窒素を含め大きい含有量の状態でもあり地中への影響が少しづつ心配されます。
また、一部の消費者が心配するように発酵前や初期発酵状態では糞に含まれる食中毒菌の作物への付着を心配することもあります。

近年は、田畑が広大に広がる地域もありますが、少しづつですが住宅が点在する、又は小さい集落ができて臭気の問題が発生する等近隣とのかかわりが問題になっています。
このため、耕種農家さんも近隣との付き合いを考えて臭気の強い畜糞そのものの使用をやめ、
比較的苦情になりにくい発酵した畜糞を使用する傾向が見られます。

このこともあり、国の補助事業を活用し発酵機を導入するところが増えてきますが、それでも機械の導入ができない農場も存在します。

地下水の硝酸性窒素の影響は、先ほどの通り過剰施肥によるものや家畜排せつ物の関係が注目されます。

肥料の与え方以外にも、私たち畜産家側の問題もあります。
その代表が、発酵していない畜糞を畑に大量に搬入することや、敷地内に穴を掘り埋却したりする野積みも関係します。

その代表例が講談社の現代メディアで「家畜糞尿問題の構造と実態」というコーナーで畜産家の不法な糞処理の実例と問題を提起しています。
地域によりましょうが、いくつかは見たことがある事例が紹介されています。畜産に携る者として心が痛むものですが、現実問題として記事を読み進めて見てはいかがでしょうか。

最近では、2020年12月宮城県の養鶏場経営者2名が鶏糞660tを原野に穴を掘り埋めたり、野積みし適正な処理を怠った容疑で逮捕し、また自社所有地に鶏糞や焼却灰 計240tを埋めたり、野積みした容疑で逮捕しました。
供述では「捨てたほうが楽だった」「たい肥化労力が面倒であった」としており安易な不法投棄に手を染める事例があります。

この問題を解決するためには適正なたい肥の利用と、たい肥処理のあり方が認知されなければなりません。
発酵前の畜糞は栄養素が過剰になるぐらいの成分が保有され、そこに化成肥料を追加することで、更なる過剰施肥となります。
耕種農家さんの問題ではなく、供給する私たちも発酵処理し、畜糞に混入した食中毒菌を取り除き、肥料成分を大きく引き下げ、耕種農家さんが求める配合ができやすいようにお手伝いをして結果排出できるような環境を作っていくことがとても大事です。

また、当たり前ですが合法だから素掘りしたり、野積みした家畜糞や尿を畑に還元することも結果水質を大きく悪化させる要因でもあります。行政はこのような地域への巡視を行っており箇所の把握をしています。ですから、平日の日中何もしなければ認識されないということはありません。
地下水の汚染は行政から見れば先ほどのように水源確保の観点からとてもネガティブなことです。
そのためにも、適正に処理することは行政への信頼につながり、地域住民の理解を得てお互い不満ない関係が築けるはずです。


水質が悪化した場合、その回復までは長い時間がかかることが一般的です。
それは、地中からその原因が取り除けるまで時間がかかるからです。
先ほどの熊本県の硝酸性窒素による地下水汚染について対策を講じて改善に向かうまで長期間要するとしており、
平成15年から平成34年までの20年間を改善計画の期間としており、長期にわたって改善を進めていくようです。

水質は見えにくく、とてもわかりずらい。お金をかけて水質検査をして数値から分かるという現実。
ですが悪くなると考える方は多くなく、穴を掘り糞や死骸といった産廃を埋却することがゆくゆく地下水を汚染すると結びつく方も多くはないと思います。

モラルの問題が問われるわけですが、過剰な量の畜糞を肥料として散布する場合は後々周辺の地下水を汚染させる可能性があります。

その情報を耕種農家さんや私たち畜産農家が知っていなければなりません。

埋めてしまえば、覆土してしまえば目から見えることはありません。
しかし雨水等で地中を浸透し地下水に到達し汚染していく。
そんな発想で想像していくのも必要なのかもしれません。

皆さんも、地下水の問題を考えるにあたって今までと同じ散布方法が適正なのか、
散布でなく、廃棄であると考えるのか。
その考えが結果、自分が良いことは良いという、他者を意識した考えではないのか。
それが、そのうち自身や農場へ帰っていくことはないのか。
考えさせられる事例なのかもしれません。