近年相談いただく組織のあり方。
高齢の事業部長や人事担当課長など退職や役職返上に伴い組織を改編したいが、これを機会にトップである経営者がもっとスムーズな指示系統を作りたいというものです。
一見説得力ある改編ですが皆さんはどのように思いますか。

本日のタイトルが「いけない」とあるので、良くないと刷り込まれてしまいますがタイトルが「するべき」であれば良いことと認識されるでしょう。

多くの農場は経営者が頂点にあり、事業部長という統括役、その指示を担当部署へ伝達しマネジメントする事業課長(生産部門の課長、堆肥部門の課長、育成部門長等)がいます。
生産農場が複数存在する場合、課長の下に農場長がいて生産農場の管理、人員シフトを管理するところもありますし、農場が少なく部門がないため部長、農場長のみというところもありましょう。
いわゆる昔からのピラミッド型組織です。

さて、組織を改編する傾向は特に経営者の世代交代でよく見られます。

父から子へ受け継がれたとき、一部ではありますが片腕と呼ばれた前経営者の責任者も高齢で引退したいと言うこともあり、数年たつことなく退職し新たな人員を補充すると言う時に、このような考えを子である経営者が見直すというもので、理由として適任者がいないということ、前経営者の片腕は恩義を感じ引退と共に自身も引退するというものです。
つまり農場や組織を管理できる人材がいなくなることで、直轄方式に改めたいというのが多いと言えます。

現在の経営者を幼少から見ている片腕は、経営者としての器を見定め引退したり、そのまま盛り立てるのか見極める傾向がないわけではありません。

その傾向から見えることは、先代の経営者と同程度の従業員とのコミュニケーションがあり、一定の信頼関係がある場合は先代の片腕も残る傾向があるように見えます。

しかし、見習い等農場で何等か努力し汗をかいていない場合の多くは、コミュニケーションが十分でないため信頼関係が十分でないことから先代の引退と共に片腕も退職するということもあります。
ですが、先代がまだ子供が未成熟だからもう少し一緒に盛り立ててほしいと懇願され数年慰留することもあります。
この場合の多くは、片腕からの教えを嫌がる現経営者(子)の傾向があると経営者の実力を見定めることで慰留を断ることもあり、こうなる場合新たな片腕を探さなければなりません。

信頼関係が十分でない場合、片腕要素がある人は自ら申し出ることはなく、自己アピールだけできる人材を誤って選定することもあります。
これは、社会経験が少ないことが要因にあげられますが、このような安易な選定は後々大変なことになるのですが、その時点で気づくことはありません。

自己アピールも大事ではありますが、本当に大事なのはアピールではなく、フラット化しなければならない本当の理由を探すことであり、その結果としてフラット化を進めることなのです。
この選定は後々組織が疲弊し最悪農場存続の危機を迎えることもあります。

片腕という農場頭脳を失い、従業員とのコミュニケーションをするために片腕を置かず組織をフラット化し、経営者と農場長兼担当課長と中間管理職を廃止することを選択する傾向が近年見られます。

畜産業以外の組織のフラット化は少し前までブームと言えました。

その利点は経営者の意思伝達が早くスムーズであるということ。

責任者の視界が広くなり自立した人間になるというものですが、これは多くのビジネス本によく書かれるメリットですが、使い方を誤るとこんなになると言うデメリットはあまり紹介されません。
ですから、経験の少ない新経営者はこのようなビジネス本から自らの農場を当てはめて経営にあたると言うのですが、失敗する場合もあることを今回紹介します。

あくまでも、「してはいけない」と言うタイトルですが、安易ではなく問題点を解決できる能力を備えることで「したほうがよい」に変わることを先にお伝えしましょう。

では、フラット化することの良いところを簡単に説明しましょう。
多くは利点を承知されているでしょうから詳細はお持ちの本やセミナー資料を参照ください。
まず良いところの最大点は「指示の最速化」になります。
経営者の考えるビジョンを現場へ具現化する時、従来は管理職という事業部長や担当課長に説明し議論し進んで行きます。
この議論がまず長いので結論まで時間を要するということ、その時間が無駄ということ、ビジョンを早く展開したいということ、時代が早く流れているので流れに乗り遅れると言うのもあるようです。

また、責任者に近い広い視野を持つ従業員となるため、自律性があり、気づきを見つけ、問題を解決し、利益をもたらすという好循環も期待できます。

このような良いサイクルがあることで経営が良くなり利益が増大という流れになるのです。

では、今日のテーマである「してはいけない」を考えて頂きましょう。
先ほどのように、やむなくということもありますが組織を改編するにあたりフラット化を目指す方もいます。
その多くは、ビジネス本からの良いところを抜き出し自社に当てはめるというもので決して間違いではありませんが、その進め方や前提が崩壊していたことに気づくことなく進めていったことが
後になり大変な問題に発展するということがあるので、そこまで時代を追い抜くほどスピーディー感を畜産業は必要なのかという天秤をかけたときにどうでしょうか。
という理由があるのです。

まず、してはいけない理由として
1,人件費を削減することを目的とした場合は意味がない
先ほどのように、部長がいて、課長、農場長があるわけですが、責任があるがゆえ高い報酬を払うと言うのはある意味当然になります。
しかし、畜産業の多くは部長だから年収1000万円、課長で900万円というハイレベル賃金は正直存在しません。
多くは勤務年数が長いことで、年収500万、600万円というのは一般的でそれより高いことも自然なことです。
なお、最低時給を基準とした年収200万円という農場は基本的に日本人雇用には向いていません。
そもそも金額が低すぎて応募がないのです。(労働内容と報酬のバランスが崩れているため)
ですから外国人技能実習生に頼るような農場運営になりますが、長い年月にわたり農場が運営できるのか懸念もあります。
最近は外国労働に日本が人気になるとは限らない傾向が見られます。
このような傾向がある場合人件費を削減するということは結果農場運営を削減するという意味に直結します。

当たり前のことですが、勤務年数が長いということは、総合的な作業をこなす要員であり、レベルが高い修善や保守管理、飼養管理、人材育成や教育もできることが一般的であり当然の姿でもあります。
それが、自立した人材に発展しており相応の対価を支払いそれがまとめ役として課長、部長となるのです。
ですから相応の年数で技術が高い人の年収は役職の手当ではないのです。(出来る人だから支払う対価ということ)

問題はそのような器でない人材が部長であり課長であるならば当然指示の最速化も期待できないでしょうし、自身の時間管理もできません
それは、あまり仕事はできないが年数だけは長いので新人と変わらない技量(職能は低級)なのに賃金だけは上昇していきただの高給取りといわれることから、組織改編もあるのでしょう。

しかしながら、そのような配置をしたのは誰なのかという視点が欠けています。
なぜ配置したのか?それは辞令を交付した人の見る目が余りにもなさすぎるのです。この失敗が次の2や3に波及していく悲劇へと進んで行きます。

2,自立した従業員とは何でしょうか
従業員自ら明日部長になります。と宣言しその椅子に座ることはありません。
多くは何らかの基準により辞令を交付しそのようになるのですが、問題はその基準が定かでないのが問題です。
例えば伺う際に経営者が答える残念な物として、何か貢献したのかと問われれば「特にないが飼養管理はしっかりしている」「他の人より1つ2つ何かを会得できる力がある」といった漠然とした基準で選ぶことが畜産業の場合見ることができます。
もともと人材を確保するにあたりしっかりした基準で採用することより、やっと確保できそうな人材だから即採用という下地があるからと感じます。

また、社内では十分な人材教育は行わずOJTを中心とした現場研修で作業の基本を覚えて一人前になると言うのが畜産業の常道ではないでしょうか。

それだけでは、人を教える立場として何を学ぶのかという視野を広げる視点が欠けています。
そもそも飼養管理はしっかりやっているでは、それは当たり前でしょう。
と突っ込みを入れてしまうぐらい当たり前であり、それで課長になれるのであればみんな明日から課長です。

つまり,視点がもうズレているのです。

では、自立した従業員とは何でしょうか。
農場HACCPでもこのシステムを入れることでこのような人材育成をしていくと言う高い目標があります。
しかし、すべての農場がそうであるのか分かりにくく実際多くはないかもしれません。
つまり、システムや組織図がそうなれば自立した従業員が自然発生するわけではありません。

現状の農場ではその多くの従業員からその個人の能力、資質があることで自然開花するのが本当の姿です。

ですが、組織図だけが変わり何も教育もなく特に変化がないだけの状況の多くは、自立するより指示待ち或いは権力に魅了された能力がまだない人材がたくさん集まる組織のみになります。
このパターンに陥り、何もできないが何もしなくても良い権限が委譲され、できない人材が発生していきます。特に上司役になった場合はそれが悲劇になります。
意味もなく農場を歩き回り、何か1つ2つ得ているのか?
意味もなく生産グラフを眺め片手はスマホとか、
仕事の時間より打ち合わせと称した時間が長く始業しても当分動かない

いや、うちにはないよと言えれば、従業員は自ら考え行動し会社の目的に向けて歩いているとも言えますが、ただフラット化しただけの組織は基礎教育がないので、ただ職務裁量が大きくなっただけなので、時間だけが余り終業までどのようにつなぐのか考え時間を活用していく実際例です。
それが、上司から下へと波及し気づけば初動も遅く、飼養管理上の事故も発生し、それが生産性へと波及しかえってフラット化したことのデメリットになるというものです。

自立した従業員とは、気づきがあり、問題点を見つけ解決能力を有しており互いを尊重し会社の方針に一丸になり進めていくことでしょうか。

3,役職がない人材も責任や権限が委譲され自ら進んで仕事をするという幻想
フラット組織の良い点である一般職員も権限移譲されており、自ら考え行動できるとされるのですが、多くはこの点がネックになり改編の失敗を痛感される事例でもあります。

十分な教育を施した場合を除き ただフラット化した場合の多くはこの点につまずきます。
畜産業は先ほどの通りOJT研修のみで技量を会得し農場を回していきます。ですから管理技術は会得できますが人に教えること、自身の権限の理解は十分ではありません。
理解がない事例は上記でお話しています。
これは、転職履歴がある人でも多くは人材教育を受けるような環境に置かれた活躍がないことが原因にあります。
ですから、仕事は覚えたが人への接し方、そもそも組織とは何か、農場の価値観とは何か等の理解が進まず自身ができるからそれでよく組織として会社を回す手法を持ち合わせないことで、
結果的に問題解決能力は低くこのような停滞している様相が目に留まり、部外者が見ても組織力が低下している又は同業他社と比較しても著しく組織力がないと見られます。
これが、農場運営に反映され管理の不手際が散発したり、人為的生産抑制があったりと他社ではもう何年も発生しないような事例が当たり前のように発生している、ある意味変わった農場に見えることでしょう。

では、フラット化は畜産業には向かないのかと言えば、必ずしもそうではありません。

フラット化することで上層部から下層部まで会社のあり方が伝達でき、その結果下層部は自ら考えそして行動しそれが会社への貢献に至るという好循環になることでしょう。
そのためには、仕事を覚えるだけでは十分な組織運営はできません。フラット化するための準備や必要な教育が必要になります。

そもそもフラット化する必要は何なのか。

そこまで掘り下げていくことで現行の組織を改める必要性まで結論を導くことができることでしょう。
ですが、短絡的に片腕がないために行うと言う理由、新しい経営者だから今ブームの組織にしたいと言う新しい成果第1号にしたいだけなのか。
そんな簡単なことで改編した場合、大事な農場はそう長い年月をかけず崩壊してしまうリスクを負うことにもなります。
そうであれば、タイトルのように「してはいけない」が正しい答えになるはずです。
実際、組織が失敗した場合の多くは結局最終責任者である経営者が自ら発信し、職員の仕事をし、根回しをし、仕事を与えと経営以外の仕事に多くの時間を割くと言う頭脳がいない部分を結局自身が補うという状況に陥ります。

時代は常に新しいトレンドに乗るという言葉がありますが、それは技術革新の企業や先進的事業を展開している場合に言えるのではないでしょうか。

大事なことは、フラット化したから会社が思うがまま理想形に突き進むというわけではないことを、まず認識してみてください。

私たちは畜産業です。
人材を本当に教えることができるような他の業主体と異なるのです。

教えることは、仕事のことで組織のこと、経営者のことまで十分理解して毎日を過ごしているのは、ほんの一握りの農場(人材育成できるほどの資本力がある農場)に限られているという現実があります。


それができない場合、結局は経営者自ら正しい道に修正できる力量がない限り、人は楽を求め権力を行使すると言う現実があることを覚悟する必要があります。

先代はどうして、今の組織にしたのか。
なぜ右腕がいたのか。
なぜ代替わりがあっただけで右腕がいなくなるのか、そして自身には右腕がいないのか。
私は人を見る目があるのか、適切な人の配置ができると言えるのか。
私は公正であらゆる人と話ができて冷静な分析ができると自身に言えるのか。

そう自問自答してまず一呼吸おいてみてはいかがでしょうか。